心因性発熱と診断されたら~日常生活上の注意点~

公開日2021.08.30

※当コンテンツの内容は2021年7月時点の情報となります。

心因性発熱と診断された場合の日常生活の心がまえと過ごしかたについて説明します。また、治療法や一緒に起こりやすい病気についても紹介します。
監修:岡孝和(国際医療福祉大学 医学部心療内科学 主任教授)

日常生活の過ごし方

ペースダウンと睡眠の確保が大切

かぜで熱が出ると、体が疲れます。ストレス性であっても、高体温が続くということは、生体が体温を上げるために、ふだんより多くのエネルギーを使っていることを意味します。ですから、いつもなら何でもないことが、体にとっては大きな負担となり得ます。これをきちんと理解したうえで、 心因性発熱が続いている時期には、日常生活のペースダウンと、睡眠時間を十分確保することが何よりも大切です。
簡単に聞こえるかもしれませんが、この病気の治療は、ここが一番のポイントです。ストレス性の発熱の場合、熱がありながらも残業を続けるなど、ペースダウンを心がけないために高体温がずるずると続いている人が多くみられます。微熱が続いている間は、次の注意点を参考にして、できるところから取り入れてください。

(1)優先順位を決めて、すべてをやろうとしない

仕事や家事を全力投球でなく70%くらいの力で行いましょう。また、そのことに対して「自分はこんな弱い人間ではないはずだ」と自己嫌悪に陥ったり、「さぼっている」「申し訳ない」などの罪悪感を抱いたりせず、これは治療だ、と割り切ることが大切です。

(2)複数のことを同時にやろうとしない。一つ一つやってゆく

マルチタスクを処理するためには、脳はとても大きなエネルギーを使います。パソコンで多くのソフトを開いて作業をしていると、パソコンが熱くなってくるのと同じです。

(3)こまめに休憩する

体温が上がると、疲労感を感じ始めたり、強くなったりするなど、体温と疲労感が関連している人では、仕事や家事をしていて、疲労を感じ始めた時に抱く考えと行動を、「まだ頑張れる、もう少し頑張ろう、仕事の区切りまでやり終えてから休もう」ではなく、「疲労は休めという体の声、きつくなる前に休憩を取ろう」に切り変えましょう。また、「疲れたら」休むのではなく「疲れる前に」休憩を入れるように気をつけましょう。(疲れを感じた時点では、すでに体温は上がってしまっているため。)

(4)休息する時は、体を横にして目を閉じる

横になるだけで、立った姿勢や座った姿勢より、筋肉の緊張も交感神経の緊張もとれます。必ずしも眠る必要はありません。目を閉じるだけで、リラックスしたときの脳波は増えます。

(5)休む時には脳を休める

仕事(学校、家事)を休んで家にいても、ずっとインターネット・スマホ、・ゲーム・長電話・メールをしていたのでは脳を休めることになりません。また、すぐに解決できないことや病気の原因・将来のことなどを繰り返し考える・不安・不平・怒りの気持ちを抱き続ける・自分は価値のない人間だと自分を責める・迷惑をかけて申し訳ないなど焦る、なども同じです。

これらのことは極力控えてください。「そうは言っても、無理です」という人も少なくないと思います。その場合は、担当の先生とよく相談して専門的治療を受けてください。

私の外来では、よく「整える療法」を指導しています。簡単にいうと、「お臍の下あたりに注意を向けてゆくと、静かな気持ちになるところがありますから(武道で丹田と呼ぶ場所ですが、患者さんの場合、理詰めで教えるよりも、自分が落ち着く感覚として理解してもらった方がよいです)、それがわかったら、そこに注意を置いたまま、静かに呼吸を続けてください。
次に、口の中に注意を持っていって、唾液が出てくる感じを味わってください」(気持ちの落ち着きが副交感神経機能の亢進を伴うようにするための技法)というものです。ほとんどの患者さんは、この感覚が理解でき、数分後には頭の中が静かな状態になりますから、その状態が長く続くよう、日常生活を工夫してください、と指導しています。

(6)日常生活を健康なリズムに戻しましょう

ヒトの体温は起床直後は低く、午後4時頃にピークとなり、その後夜になると眠りにつく時間に向かって徐々に下がってゆくというリズムがあります。朝起きた時の体温がすでに37℃以上だったり、深夜に向かって体温が上がったりする人は睡眠—覚醒のリズム・食事のリズムが乱れている可能性があります。

ヒトは寝る前には放熱反応が起き、体温が下がります。眠りたい時間に体温が下がらない、むしろ上がる人の場合は、体の仕組みがこれから活動するモードになっており睡眠薬を飲んでもなかなか眠れません。さらに良質な睡眠を確保できない場合には睡眠による体温低下反応が起きないため、朝から体温が高いということになります。ぐっすり眠れていないのですから、当然疲れが取れず朝から体もだるくなります。

また、ヒトは食後に体温が上がります。そのため、夜遅く夕食をとってそのまま眠ろうとする人は、眠りたい時間に体温が上がるので良質な睡眠が得られない(結果として体温が下がらない)原因となりえます。

このほか体温のリズムを整えるためには、日中散歩をして太陽を浴びること、そして夜間の光(テレビ、ゲーム、パソコン、スマホなど)を避けることも大切です。
体温の日内リズムは自律性体温調節反応によって生じます。ですから体温のリズム失調が規則正しくなってくると、それに伴ってさまざまな自律神経症状も改善してきます。

これらの点に注意して、実行可能な工夫をしましょう。オーバーヒートしている体の状態を理解して受け入れ、自分なりの省エネ運転術を見つけて実行することが治療となります。

(7)この時期に心身を鍛えようとは考えないこと!

ストレス性と診断されると、「鍛えなければ!」と考える人がいます。かぜの予防のためには乾布摩擦など、心身の鍛錬は有効です。しかし熱があって震えているときにすると逆効果であるのと同じです。鍛錬は病気が治って元気な時にするものです。

治療方法と、一緒に起こりやすい病気について

心因性発熱の治療方法

私自身は心因性発熱を治療する際には、(1)生活指導(2)薬物療法(3)自律訓練法などのリラクセーショントレーニング(4)心理療法(家庭、職場や学校での環境調整を含む)(5)一緒にかかりやすい病気(併存症) つまりストレスがもとになって生じている他の体の病気(身体疾患)、心の病気(精神疾患)の治療を必要に応じて組み合わせて行っています。これらはあくまでも原則的な治療です。実際には、患者さんによってストレスとなる原因や、それを解決できる状況かどうかは異なってきますので、極論すれば、心因性発熱の治療は、「患者さん一人ひとりのストレスに対する個別の処方箋」となります。

心因性発熱と一緒に起こりやすい病気

ストレスは心にも体にも多くの影響を与えます。したがってストレスで体調をこわす時、一つの病気だけでなく複数の体の病気・心の病気が同時に起こることがあります。心因性発熱の患者さんでは、子どもでは起立性調節障害・発達障害、成人では緊張型頭痛・気分障害(うつ病、そううつ病)・不安障害(パニック障害、PTSD)などをともに発症している場合が少なくありません。

これらの病気も同時に治療しないと、心因性発熱も治りにくいことがあります。とくに心の病気が伴う時には心の病気の治療を同時に行なうか、むしろ精神科医を受診し心の病気の治療を優先したほうがよい場合があります。なかなか下がらなかった体温が、心の病気の回復とともに自然に改善する場合もあります。

*これらの注意点は、岡孝和:心身医52(9),845-856, 2012および、心身医60(3), 234-240,2020.で紹介した「日常生活上の注意点」を、患者さん用にわかりやすく解説したものです。

公開日 2021年8月30日 ※2007年の記事より加筆・掲載

監修者紹介

岡孝和

国際医療福祉大学医学部心療内科学主任教授

1996年九州大学大学院助手、1998-2002年ハーバード医科大学、2002年産業医科大学医学部講師、九州大学大学院医学研究院心身医学准教授を経て、2017年より現職、2018年4月より同大学大学院医学研究科臨床医学研究分野心療内科学教授、2020年より国際医療福祉大学成田病院心療内科部長を兼任。

岡先生
からのメッセージ
慢性的に過労状態が続くと微熱を生じる人がいます。また心理的なストレスによっても高い熱が出ることもあります。このような人は病院に行って検査を受けても異常がないといわれたり、解熱薬を飲んでも効かなかったりします。ストレスが原因で生じるこのような発熱についてお話します。
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