低体温症についてこのページを印刷する

からだの中心部の温度が低くなると、どうなるか。

監修:山本保博(東京臨海病院 病院長)

からだの中心部の温度が35℃以下になる

寒い環境では体の中心部の体温を維持できなくなる

ときどき「わたしは低体温なんです」という人がいます。しかし、ほとんどの場合は、正確に体温を測ってみると、36℃以上はあります。体温の測り方が悪くて、低めに出ている人も多いようです。医学的な「低体温症」とは、救急医学会の「偶発性低体温症」の定義では、体の中心部の温度が35℃以下の場合をいいます。
普通の人では、体の中心部の温度は37℃程度に保たれています。そして体の中心から離れた皮膚の温度はそれより低くなっていきます。この図の「暑い環境」では、体の中心部はもちろん、腕や脚の中心部分までが37℃になっています。
「涼しい環境」では、頭や胴体の中心部のみが37℃で、肩から腕、下腹部から脚にかけて広い範囲で温度が低くなっています。
ところが「寒い環境」では体の中心部でさえも35℃以下まで低下してしまうことがあり、これを「低体温症」の状態といいます。

寒い環境では体の中心部の体温を維持できなくなる

(Aschoff Jら, Naturwissenschafte, 1958より改変)

東日本大震災でも多発した「偶発性低体温症」

低体温症には2種類ある

低体温症には2種類があります。「偶発性低体温症」は原因が事故や不慮の事態にある場合。「誘発性低体温症」は心臓や脳の手術を安全に実施するため、わざわざ患者さんの体を冷却することをいいます。 偶発性低体温症は、最近では2011年のまだ寒い3月11日に起こった東日本大震災の津波で、体がぬれた人たちの間で多く起こり、たくさんの尊い人命が失われたことはよく知られています。山での遭難でもよく起こります。いずれも寒さと風で体熱が奪われた結果、体温が異常に低下することによって起こります。

東日本大震災でも多発した「偶発性低体温症」

普段の生活の中で起こることが最も多い

生活の中の低体温症

実際に偶発性低体温症がいちばん多く起こるのは、お酒や睡眠薬を飲んだあと寒い場所で寝てしまったようなときです。つまり、偶発性低体温症はふだんの生活の中でも充分に起こりうる事故だといえます。そのほか、飢えや路上生活、脳血管障害、頭のけが、広範囲のやけど、皮膚の病気、内分泌の病気(甲状腺・下垂体・副腎などの機能低下)、低血糖などでも起こります。また子どもやお年寄りの場合、さらに起こりやすくなります。

低体温症の原因

  1. 寒冷環境:寒い環境
  2. 熱喪失状態:体熱が奪われた状態
  3. 熱産生低下:体内でつくられる熱の量が少ない
  4. 体温調節能低下:体温を調節する体の仕組みが低下している

偶発性低体温症が起こる状況

  1. 睡眠薬や鎮静薬を服用
  2. 酒での酩酊(急性アルコール中毒)
  3. 飢餓
  4. 特殊な病気(低血糖・中枢神経障害など)
  5. 上の1〜4の条件が重なった場合

体温の低下の程度による症状のちがい

体温が35℃まで低下すると「寒冷反応」が起こる

体温が35℃まで低下すると「寒冷反応」が起こる 体温が下がり始めたときの体温調節は、おもに体の震えと皮膚血管の収縮(鳥はだなど)により行われます。体温が35℃まで低下すると多量のカテコラミン(緊急の際に生体を活性化させる物質)の分泌により、末梢血管が収縮し体熱の放散を防ぐとともに、筋肉が震えて熱を発生させます。これらは体温を上昇させようとする反応であり、「寒冷反応」と呼ばれます。寒冷反応が起こっている間は、酸素の消費量が著しく増大します。しかしやがて体熱の喪失が産生を上回ってくると、筋肉の震えは止まり、体温はさらに下がり、各臓器の機能も低下してきます。

体温が30℃以下まで低下すると不整脈など心臓のトラブルが起こりやすくなる

体温が30℃以下まで低下すると不整脈など心臓のトラブルが起こりやすくなる 体温が30℃以下まで下がると、心臓の血液を送り出す大切な部分である心室に、脈が不規則となる「不整脈」や、動きが不調となる「心室細動」が発生しやすくなり、これが命にかかわることも多いのです。不整脈とともに心臓から全身に供給される血液の量が減り、さらに手足のような末梢の血管が収縮することから、血液の流れが滞る「末梢循環不全」も発生します。

呼吸をコントロールする神経の働きも悪くなるため、呼吸数やひと息に吸う空気の量も減少します。エネルギーや酸素の消費は体温の低下にしたがって減少し、とくに脳で消費する酸素の量は30℃で50%、25℃で25%に低下します。また体温が30℃前後から意識の障害が起こります。毛細血管の透過性が高くなり、血液成分のうち、水分やたんぱく質などが血管の外へ漏れ出すようになります。
体内の老廃物が尿中に出なくなるため、より真水に近い「低比重尿」が増加します。また血液が濃縮されて粘度が高くなり、各臓器の血流量は減少します。肺水腫、腎不全、DIC(播種性血管内凝固症候群=全身の細い血管内に多数の血栓ができる病気)、肝不全、消化管出血などが起こり、多臓器不全を起こしやすくなります。
このままの状態が続くと、やがて呼吸停止、心停止となります。

体温 神経 心臓や血管 呼吸 筋肉 代謝
35℃ 無関心・意識がはっきりしない手足などの末梢の血管が収縮する呼吸の量や化指数が増加激しく震える酸素・エネルギー消費が増加(正常の3〜6倍)
30℃ 呼びかけても反応しない不整脈(心室性)が出てくる呼吸の両や回数が低下咳が出にくくなる震えが低下し筋肉が硬直してくる酸素・エネルギー消費が低下
25℃ ピンなどで指を突いても痛みに反応しない心室細動(心臓の動きの不調)の危険性咽頭反射(のどの奥を押すと吐き気)の消失筋肉が硬直している酸素・エネルギー消費が・極度に低下(正常の50%)
20℃ 脳波が消える心室細動が起こる無呼吸筋肉が硬直している熱がほとんど作られない
15℃ 脳波が消える心臓が止まる無呼吸筋肉が硬直している熱がほとんど作られない

監修者紹介

山本保博(東京臨海病院 病院長)
1968年日本医科大学大学院卒業,1975年日本医科大学病院救命救急センター。その後救急医学教授などを歴任し、2008年に東京臨海病院・院長。日本救急医学会指導医、救急科専門医。日本外科学会指導医、認定医。日本熱傷学会認定医。日本消化器病学会認定医。日本感染症学会インフェクションコントロールドクター認定。日本集団災害医学会理事長、日米医学医療交流財団理事、外務省参与・救急災害担当大使、厚生労働省・厚生科学審議会専門委員なども務める。防災功労者内閣総理大臣賞、救急医療功労者厚生労働大臣賞などの各賞を受賞。

山本先生からのメッセージ

偶発的な低体温症は、「凍えて死にそうになる」状態であり、現代日本の生活では起こりにくいことと考えられがちです。しかし登山で遭難したり、サーフィンで流されたり、災害被災直後の避難所などでは起こることがあり、亡くなる方もおられます。また飲酒後や睡眠薬を服用した後、寒い場所で寝てしまったときに起こることも多いのです。 ご自身やご家族、友人のために、この疾患の性質や簡単な予防法・対処法などを頭に入れておけば、役立つことがあるかもしれません。

山本保博先生

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