体温を測ることは、自分の健康状態を知り、病気にそなえる最も身近な方法。「体温のトリヴィア(豆知識)」を入り口に、もっと体温のことを知って、健康な生活に役立てよう。
監修:入來 正躬(山梨大学名誉教授)

なぜ人間は温かいの?
釣った魚を持ったら冷たく感じました。でも人間の手は温かいし、ネコも抱くと温かく感じます。これはなぜですか?
「魚類」や、カエルなどの「両生類」、ヘビなどの「は虫類」は「変温動物」といって、体温はまわりの環境の温度によって変化します。ですから変温動物の体温は、気温や水温が高ければ高く、低ければ低くなります。ふつう、気温はヒトの体温より低いので、カエルにさわれば冷たく感じます。
これに対し、ヒトやネコなどの「ほ乳類」、スズメなどの「鳥類」は「恒温(こうおん)動物」といって、ふつうは環境の温度より高い体温をしています。恒温動物は、気温など自分のまわりの温度が高くても、低くても、一定の体温を保とうとします。
恒温動物は変温動物よりエネルギーを生み出す量(代謝(たいしゃ)量といいます)が多く、変温動物の4倍の代謝量があると考えられています。そしてヒトは代謝によって生み出されるエネルギーの75パーセント以上を熱に変え、体温を約37℃に保とうとしているのです。

なぜ体温を測るの?
体温を測ると、なにがわかるのですか?
何らかの病気が原因で体調が悪い場合、体温を測れば発見できることがあります。かぜやインフルエンザなどの感染症にかかると熱が出ます。体温を測ってみて、いつもより高いと、そのあと気分が悪くなって感染に気付くことがあります。体温を測らないで、発熱に気づかず激しい運動をすると、感染症がひどくなってしまいます。
プールに入る日の朝体温を測るのは、体調の良しあしを判断するためです。水泳はかなり激しい運動になりますから、体調の悪い時は避ける必要があります。もうひとつの理由はプール熱(咽頭結膜熱)を他人にうつさないためです。プール熱のウイルスは水を通して感染しますから、もしかかったときはプールに入るべきではありません。
ふだんから起床時、午前、午後、夜の計4回体温を測り、時間帯ごとの平熱としておぼえておけば、何時に体温を測っても、発熱の有無を判断することができます。

いつから体温を測るようになったの?
人間は、いつごろから体温を測るようになったんですか?
1609年、イタリアのサントリオは、閉じられたガラス管を口にくわえて測る、空気温度計を試作しました。くねくねと曲がったガラス管の一方を球型に加工し、もう一方を水入りの容器に入れるという単純な構造のものでした。ガラス球を口に含むことで内部の空気が温まって空気がふくらみ、管内の水位を押し下げる度合いを目盛りで読み取ることで、体温を測りました。
それまでは手のひらの感覚だけで「熱がある、ない」という判断をしていたのですが、サントリオの不完全な体温計でも、体温を数字でつかまえようとした点では大きな意味のある実験だったといえます。
これがその30数年後に現れた水銀体温計の原型とされています。

なぜ体温は測るときによって変わるの?
体温を朝測ると低めに、午後測ると高めに出るような気がします。これはなぜですか?
かぜやインフルエンザなどの感染症にかかると熱が出ますが、健康に暮らしているときも、ヒトの体温は、1日のうちにほぼ1℃以内の範囲で、変動しています。ふつうは早朝にいちばん低く、夕方いちばん高くなります。
このリズムは「概日(がいじつ)リズム」といって、朝起きて、夜眠るヒトの生活に連動しています。ヒトは深部温(直腸など体の奥のほうの温度)が低いほうがよく眠れるという性質をもっていますから、夜のあいだ体温が低くなるのは、熟睡するのに好都合です。
では具体的に、どのような仕組みで体温が下がるのでしょう?そのひとつの理由として、ホルモンの一種である「メラトニン」の働きがあります。メラトニンは皮膚血管を広げる働きがあるため、手足などの皮膚血管を開かせて熱を逃がし、深部温を下げる作用がありますが、血液中のメラトニンは、夜間に増えることがわかっており、体温の概日リズムに深くかかわっているのではないかといわれています。

1日の体温リズムは決まっているの?
1日のうちで変動する体温のリズムは、だれでも同じなのですか?
ヒトの体温は、ふつうは早朝にいちばん低く、夕方いちばん高くなります。
しかしこの正常な体温リズムが、くずれている子どもが増えてきたといわれています。とくに夜遅くまで起きていて、朝は登校時間ぎりぎりまで寝ている「遅寝遅起き」の生活では、体温のリズムが普通より3〜4時間後ろへずれ込んだリズムになりやすくなります。
このように体温リズムがずれると、朝はなかなか体温が上がらないため動きがにぶくて元気が出ず、夜は反対に、体温がなかなか下がらないため、なかなか寝付けず夜更かししてしまうという悪循環が起こってしまいます。普段から「早寝、早起き」の習慣をつけておくことが大切になります。

なぜワキの下で体温を測るの?
体温計をワキの下に入れて測るのはなぜですか?
体の状態を知るには、本当は身体深部の温度を知る必要があります。病院では手術などのときに、お尻の穴から直腸の温度を測ったり、特殊な「深部体温計」という装置を使うことがありますが、家庭での健康管理に使えるようなものではありません。
ワキ下の温度は体表面の温度ですが、しっかりワキを閉じておくことで、体内の温度に近づきます。昔からある水銀体温計や「実測式」の電子体温計では、約10分間、ワキ下に体温計をはさんで測ります。ただ水銀体温計の場合は、欧米を中心に医療機関で水銀の利用を廃止する動きが出てきたため、日本でもだんだん使われなくなってきました。
「予測式」の電子体温計は、熱の伝わり方で温度がどれくらい上がるのかを予測計算することで、短時間のうちに体温を表示します。

実測式:ワキの下の温度をそのまま表示します。ワキの下が温まらないと低めに表示されますから、10分間測る必要があります。
予測式:短い時間での温度の変化をもとに、10分間実測したときの体温を予測計算して表示します。「平衡温予測方式」の場合、平均20秒*で体温を表示します。
*(テルモ体温計C230、C231)
予測式体温計って、正確なの?
「予測」っていうと、不正確かなと感じるのですが、どうなんですか?
たしかに水銀体温計や実測式電子体温計を10分間ワキ下にはさんで測れば安心なのかもしれません。でも実際にそんなに長い時間測っているのは大変です。
予測式の体温計の正確さについては、メーカーごとに工夫して作っていますから、いちがいに評価するのは困難です。テルモの予測式体温計については、下の図のように、10分間実測した値を中心に狭い範囲で分布しています。一方、実測では、300秒(5分間)、180秒(3分間)、90秒(1分半)と、測定時間が短いほど差が大きくなっています。

1秒で測れる体温計ってあるの?
1秒間で測れる体温計があるって本当ですか?
本当です。耳の穴に入れて測る「耳式体温計」は、わずか1秒で測れます。耳の中にある鼓膜(こまく)とその近くから出る赤外線の量を瞬間的に測り、体温として表示する仕組みです。赤外線は太陽の光をはじめ、テレビのリモコンや暖房器具などからも出ますが、ヒトの体からも出ています。出る赤外線の量は温度が高ければ多く、低ければ少なくなります。鼓膜は耳の奥にあり、気温の影響をあまり受けません。ですからより体内に近い温度を測れます。
長い間じっとさせるのが難しい赤ちゃんや小さい子供の体温を測るのにも適しています。また体内に近い温度を測れることから、屋外での作業現場や、スポーツの合宿など、熱中症に気をつけなければならない場合にも、よく使われています。耳の温度は、ワキの下とは違いますから、べつべつのものと考え、それぞれの平熱を覚えておくことをおすすめします。

監修者紹介
入來 正躬(山梨大学名誉教授)
1960年東京大学医学部大学院修了。フンボルト奨学生としてドイツ・マックスブランク心臓研究所に留学。山梨医科大学生理学教授、山梨県環境科学研究所長を経て、ひかりの里クリニック理事長・院長。
入來先生からのメッセージ
体温は、今でも身体の状態を知るいい目印としてひろく使われています。身体の調子が悪いと、体の温度は高くなったり、低くなったりします。病気なのかどうか、病気がよくなっていくのか悪くなっていくのかの見当をつけるのに体温が使われています。体温を間違いなく判断できるように、学んでください。








