睡眠障害が招く「うつ」と体温の変調

公開日2021.08.30

※当コンテンツの内容は2021年7月時点の情報となります。

体内時計の変調による「うつ」とは
監修:内山真(東京足立病院院長/日本大学医学部精神医学系客員教授)

ヒト体内時計の周期は24時間より長い

光を浴びないと、体内時計は24時間周期にならない

体内時計は体温や睡眠、ホルモンの分泌などをコントロールし、約1日のリズムを作っています。これを「概日リズム」といいます。

私たちの概日リズムは1日24時間のリズムに合っているようにみえますが、光刺激のないところでは24.5~25時間の周期であることが分かっています。実験的に、自然の光が入る部屋で生活させると、きちんと24時間ごとの概日リズムを維持しますが(グラフの青地部分)、外光を遮断し、時計やテレビなど時間の手がかりになるものを取り除いた状態で生活させると、睡眠時刻が毎日1時間ずつ遅れ、1日を24.5~25時間のリズムで過ごすことが観察されます(グラフの赤地部分)。

1日にほぼ1時間ずつ遅れる体内時計を正しい時刻に合わせるために、光は重要な役割を果たしています。もしヒトが外の光を浴びない生活をしていたら、ヒトの体内時計は、24時間に修正されることはないため、日の出、日の入りを基準にした毎日の生活サイクルを維持することは困難になります。

光が入らないところでは人間は1日を約25時間として生活する

朝の光を浴びないと体温のリズムを正しく保てない

朝の光だけが体内時計を正確に合わせる

自然の光がヒトの体内時計を24時間に修正することは分かりました。では、体内時計が修正されるのは、1日のうち、いつなのでしょう?

実験で25時間の概日リズムを示している人に、朝日に近い強い人工光をあてると、光をあてた時刻に応じて、次に眠りにつくタイミングが変わります。その人が眠りから目覚める「朝」の時間帯に光をあてると、次の入眠のタイミングが早まり、24時間周期に近づきます。反対にこれから眠りに入る「夜」の時間帯に光をあてると、入眠のタイミングは遅くなります。

このことから、日常生活のなかでは、朝の光が毎日約1時間ずつ概日リズムを早めることにより、体内時計を24時間に合わせているのだと考えられます。夜型生活で朝の光を浴びる機会がなくなると、人は体内時計を合わせる機会がないので、睡眠が遅い時間帯に遅れてきます。

脳が光の信号を受けて体内時計を調節

ヒトを含む哺乳類では、体内時計の仕組みは脳内の視交叉上核(しこうさじょうかく)にあります。
目から入った光の情報がここに伝わると、「朝」であることを感知し、25時間で動こうとしている体内時計を24時間のリズムに調節してくれるのです。

体内時計を合わせるタイミングは早朝の最低体温から数時間

日が高くなってからの光では体内時計を合わせられない

ヒトの体温は、夜になると就寝前から下がり始め、安らかな睡眠に入る準備をします。逆に朝の体温は、夜明けより前に最低となりますが、起床時間の約2時間前から上昇をはじめ、しっかりと朝の活動に備えます。

光を浴びることで体内時計を合わせることが可能な時間帯は、普通は夜明け前に出現する「最低体温」の直後から数時間に限られることがわかっています。この時間帯は、通常は夜明けから「朝日」といえる日差しがある間になります。

日が高くなって、すでに体温が十分高くなっている時間帯にいくら日光を浴びても、体内時計を合わせることはできません。

1日の体温の動き

夜型生活が「うつ」と関連

概日リズム睡眠・覚醒障害は「うつ」の大きな誘因

このような概日リズム睡眠障害(睡眠・覚醒相後退障害)になると、「うつ」などの気分障害が多くみられるようになります。交代勤務の人たちに「うつ」のような症状がみられることは以前から指摘されていました。

いまは生活全般の24時間化が進んでおり、夜中にテレビをみたり、夜遅くまで携帯電話やパソコンを使ったりする習慣も一般化しています。このため、概日リズムが遅れてしまう機会が多くあり注意が必要です。極端な夜型の人はうつになりやすいという研究がいくつか報告されています。

対応法として、概日リズムが遅れて寝つきが悪く、起床ができない場合には、無理してでもがんばって早く起きて、日光のもとで生活することです。概日リズムが早まりすぎて朝早くめざめてしまう場合は、午前中の間はサングラスなどで日光が目に入りにくい工夫をすると効果があります。

体温が高くなる「うつ」の患者

夜の体温も高いため、睡眠で体が休息できず回復しない

うつ病では、夜の深部体温が高くなっていることがわかっています。これは、本来は体温を下げて体を休める夜の時間帯になっても体温が下がってこないといってもよいでしょう。

体が本当の意味での休息モードに入れないので、うつ病の人は、うまく休むことができず、回復感のない睡眠になってしまうことが考えられます。

うつ病を治療すると体温が下がる

このグラフは1日の体温の動きを示しています。赤い実線で示されたように、うつ病では夜間の深部体温が、黒い点線で示された健康成人と比べ全体に高くなっています。

とくに夜間睡眠中の体温の下がりかたが悪く、十分に体を休めることができなくなっていることが考えられます。うつ病では、健康成人と比べ、昼間と夜間の体温差、つまり体温のメリハリが全体になくなっています。

うつ病の治療後は青い実線で示すように、夜間に深部体温が下がるようになり、点線で示した健常人の体温とほとんど同じパターンになることがわかります。

うつ病患者の体温は1日中高い

監修者紹介

内山 真

東京足立病院院長/日本大学医学部客員教授

1954年、横浜生まれ。1980年、東北大学医学部卒業。1991年、国立精神・神経センター精神保健研究所。1992年、ドイツ ヘファタ神経学病院睡眠障害研究施設に留学。2006年、日本大学医学部精神医学系主任教授。2020年より現職。

内山先生
からのメッセージ
近年増加しているうつ病は、種々の睡眠の問題をともなうことが多く、体内時計とも深く関係していることがわかっています。体温は睡眠と同じように体内時計のコントロールを受けており、睡眠に大きな影響を及ぼします。そのため、うつ病の研究には欠かせない要素となっています。
うつ病は生活リズムをよくすることで、ある程度予防できます。うつ病に備える生活習慣を身につけて心身の健康に役立てていただければ幸いです。
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