公開日2021.08.30
※当コンテンツの内容は2021年7月時点の情報となります。
ストレスが原因となって体温が上昇することがあります。大きく二つのタイプに分かれ、高い熱が出るものの回復が早いタイプと、37℃を少し超える程度の軽い熱がずっと続くタイプがあります。
監修:岡孝和(国際医療福祉大学医学部心療内科学主任教授)
目次
精神活動(授業に出る、仕事をする、人に会う、極度に緊張する、けんかするなど)に伴って急に体温が上がることがあります。
たとえば、入院中の患者さんが手術当日の朝、急に39℃の高熱が出たけれど、手術が中止と決まったらすぐ下がった、というようなことがあります。これは子どもによくみられるタイプですぐ解熱しますが、ストレスの原因を解決しないと何度でも繰り返すことがあります。まれに40℃以上になることもあります。
時々、オリンピック選手が、試合当日、高熱を出して、試合が終わった途端に平熱になったという話を聞きますが、私は、この場合の熱の中には、心因性発熱が少なくないのではないかと考えています。
残業が続く、介護で疲れ果てている、授業と部活の両立が難しいなど、慢性的なストレスが続いている状況や、いくつかのストレスが重なった状況で、37℃~38℃の微熱程度の高体温が続くタイプは、働き盛りの成人によくみられます。
微熱はしばしば頭痛、倦怠感などの身体症状、不眠を伴います。このタイプの微熱を呈する人は、体調が悪い日が続いている中で、たまたま微熱に気づいたという場合(体調が悪いので「どこか悪いのではないか」と熱を測ってみたら、たまたま37℃台の微熱があって、その後も微熱が続くので心配になったなど。
最近だと、新型コロナウイルス感染症のため、体温を毎日計るようになって初めて気づいた、というパターン)が多いのですが、仕事が忙しいなどの慢性ストレス状況で、かぜなど感染症をきっかけとして生じる場合(この場合、病院では「検査データも正常だし、治っているはず」と言われて、困っている人が多い)もあります。
このタイプの微熱は、ストレス状況が改善すれば自然に治ることもありますが、原因が解決した後もしばらく続くこともあります。
このタイプでは、微熱そのものよりも、体温が上がると(例えば37.2℃を越すと)、倦怠感が増強したり、頭がボーッとして仕事(勉強)ができなくなる、頭痛がするなど、さまざまな症状が出たり悪化したりするので、それによって日常生活に著しい支障が出て困る人が多いです。
もちろん、(1)と(2)が合わさっている人、つまり微熱が続く中で、何かストレスフルなことがあるとさらに高体温を生じる人もいます。
注:慢性微熱タイプの場合は、特定の限られたストレスによって生じるというよりも、いくつものストレス要因や生活習慣などの積み重なりの中で生じることが多いため、“心因性”発熱という病名ではなく“機能性”高体温症と呼ぶ医師が増えてきています。
かぜを引いたときの発熱は、ウイルス感染によって生じた炎症が信号となり、脳が交感神経と筋肉に命令して体温を上げ、ウイルスをやっつけやすくする反応です。
この時の信号として働くのが、炎症性サイトカインとプロスタグランジンE2 (PGE2)と呼ばれる物質です。かぜを引いたときに飲む漢方薬の葛根湯はサイトカインの産生を、また解熱薬はPGE2の産生を抑えることで解熱作用を発揮します。
一方、精神的なストレス状況でも、ストレスに対処するために交感神経の働きが活発になり、体温が上がります。 両者は体温が上がるという点では同じですが、ストレス性の場合、サイトカインとPGE2は関与しないので、病院で血液検査をしても異常(炎症反応)は見られず、かぜ薬や解熱薬など炎症を抑える薬を飲んでも、熱は下がらないのです。
このようにストレス性の場合は、かぜを引いたときの発熱とはメカニズムが違うので、ストレスが原因となって生じた高体温状態を「心因性“発熱”」と呼ぶのは正しい表現ではないように思えますが、歴史的にこのように呼ばれています。私は「ストレス性高体温症」と呼ぶ方がよいと考えています。
発熱を伴う病気にはいろいろなものがあります。感染症、自己免疫疾患、悪性腫瘍などなど(体のどこかに悪い場所があるので「器質的疾患」といいます)。これらの病気は手遅れになると、命にかかわることがあるので、病院の検査では、器質的疾患がないか、画像検査(CTなど)をすることもあります。
また、血液検査をして炎症反応に加えて、熱が出る、さまざまな病気に特徴的な所見の有無を調べたり、甲状腺から過剰にホルモンが分泌されてしまう病気(甲状腺機能亢進症)でも体温が上がるので、これらのホルモンの値を調べたりします。
このような検査を駆使しても異常が見られない時に「何も異常がありません」と説明されることがありますが、これは、何らかの深刻な病気は見つからなかったと説明することで、患者さんを安心させようとしているのです。
しかし、ストレスによる高体温に悩む患者さんのなかには、「ではこの熱はどこからくるのか?」、「このまま原因不明の病気で死んでしまうのではないか?」、「どうすれば熱が下がるのか?」と、逆に不安になる人も多いようです。
前の項で説明したように、ストレス性の体温上昇は炎症を伴わない反応ですから、画像検査でも、血液検査でも異常は見つかりません。器質的な疾患がないことが確認されたことで、ストレス性の高体温の可能性が疑われます。「何かストレスになるようなことを抱えていないか」、患者さんと一緒に病気の背景を考えていくことになります。
公開日 2021年8月30日 ※2007年の記事より加筆・掲載
岡孝和
国際医療福祉大学医学部心療内科学主任教授
1996年九州大学大学院助手、1998-2002年ハーバード医科大学、2002年産業医科大学医学部講師、九州大学大学院医学研究院心身医学准教授を経て、2017年より現職、2018年4月より同大学大学院医学研究科臨床医学研究分野心療内科学教授、2020年より国際医療福祉大学成田病院心療内科部長を兼任。