公開日2021.08.30
※当コンテンツの内容は2021年7月時点の情報となります。
ここでは、熱中症が起こる要因を探ります。どのような場合に、どのような人がなりやすいのでしょうか。
監修:永島 計 早稲田大学人間科学学術院 体温・体液研究室 教授(医師、博士(医学))
熱中症の原因は大きく二つに分けられます。一つは、気温や湿度、作業着や衣服など環境によるもの。もう一つは、年齢や健康状態、運動や労働などで体を動かしている状況など、本人の状態によるものです。この二つの要素が重なりあって、熱中症が起こりやすい状態が生まれます。
環境要因としてまず思い浮かぶのは、気温の高さでしょう。熱中症が急に増えるのは梅雨どきの6月下旬から7月上旬で、最も多いのは猛暑になりやすい8月上旬から中旬です。
このことから、たんに気温が高いだけでなく、体が暑さに慣れていない時期に急に気温が上がったり、気温の高い日が続いたりすることが、熱中症を起こしやすくすると考えられます。
この時期は湿度も高くなっています。ヒトには、体温が上昇すると汗をかき、それが蒸発する時の気化熱で体温を下げる体温調節機能が備わっていますが、湿度が高いと汗は気化しにくくなり、有効に体温を下げることができなくなります。
このため、より多くの汗をかいてしまうことになり(無効発汗)、脱水症の原因にもなります。体内に熱がこもったままになるため、蒸し暑い日は熱中症が起こりやすいのです。そのほか、風が弱い、日差しが強い、照り返しが強いなどの環境要因も熱中症の発生を促進します。(図1)
本人の状態のうち年齢に目を向けると、熱中症になりやすい人として高齢者や子どもがあげられます。どちらも、若い人より体温調節機能が低いからです。
高齢者は若いころより体温調節機能が衰えています。特に体温が上がってもなかなか汗をかけないこと、汗をかいても、その量は少ないこと、また汗をかける汗腺の数が少なくなることがあげられます。
また、暑さを感じる強さも低下している可能性も指摘されており、衣服を脱いだり、適切に空調をつけたりすることができなくなっていることが推測されます。
このため、暑い環境で体温が上がりやすくなります。日常生活でも飲水が十分でなく脱水に傾きやすいことに加え、のどの渇きも感じにくいことが報告されており、特に暑い環境では、気づかないうちに脱水が進んでいることがよくあります。
一方、子どもは体温調節機能が未熟なため、環境要因が大人より大きく影響します。とくに乳幼児は、暑くても自分で衣服を脱いだり水分をとったりすることができないので、熱中症のリスクが高くなります。
年齢とは別に、高血圧、糖尿病、心臓病、肝疾患、腎臓病、精神疾患などは体温調節機能を乱す原因になることがあり、それらの治療薬のなかには、体温が上がりやすくなったり、暑い環境での体温調節反応の妨げになったりするものもあり、熱中症になりやすい要因となってしまうことがあるので注意が必要です。
暑さにさらされることの多い仕事や強い運動を行うことが多い人は、医師や薬剤師に相談する必要があります。
熱中症は、その原因によって「古典的熱中症」と「労作性熱中症」に分けられます。
古典的熱中症は、主に外界の熱によって起こります。熱波(夏季に気温が異常に上昇し、持続する現象)によって熱中症になる例はこれで、高齢者や子ども、持病のある人に多く発生します。
労作性熱中症は、運動や作業などで体内に発生した熱が主な原因です。30℃を超える暑い環境でなくても起こることがあり、運動や労働による負荷が長時間にわたり、発汗などによる熱の放散が十分でない場合に起こるものです。
若く健康な人にも発症しますが、この際でも体調が悪かったり、飲水が十分でなかったり、運動や作業に慣れていない新人が被害者になったりしやすいなど個人の要因も無視できません。高齢者に比べると致死的になる事例は比較的少ないと言われています1)。
1)熱中症診療ガイドライン2015(日本救急医学会)疫学CQ2
永島 計
早稲田大学人間科学学術院 体温・体液研究室 教授(医師、博士(医学))
1985年京都府立医科大学卒業。京都府立医科大学附属病院研修医、修練医、大阪鉄道病院レジデントを経て、京都府立医科大学大学院博士課程(生理系)修了。京都府立医科大学助手、YALE大学医学部・John B Pierce研究所ポストドクトラルアソシエート、王立ノースショア病院オーバーシーフェロー、大阪大学医学部助手•講師、早稲田大学助教授を経て、2004年から現職。日本スポーツ協会スポーツドクター、日本医師会認定産業医。