公開日2021.08.30
※当コンテンツの内容は2021年7月時点の情報となります。
テルモの歴史は体温計の開発からスタートしました。体温計の電子化や、測定時間の短縮を実現させた技術と、その道のりをご紹介します。
目次
1983年、電子体温計を発売したテルモ。当時は主流であった水銀体温計の製造打ち切りを決断し、より安全な体温計の開発を目指して電子体温計の開発にチャレンジしました。
1985年、テルモの水銀体温計は、当時国内一位を誇る生産量があったにもかかわらず、60年以上の歴史に終止符を打ちました。その理由は、「水銀」です。当時の体温計に使用していた「無機」水銀について、環境汚染や健康被害の報告は見られなかったものの、テルモは公衆衛生上の見地と市民としての感覚を重視して、生産終了という決断に踏み切ったのです。
水銀体温計の製造打ち切りを決めたテルモは、それに替わる電子体温計の開発に着手しました。まず最初に考えたことは、水銀体温計の長所と短所の分析でした。60年を超える歳月によって磨かれた水銀体温計は、小形で使いやすく、正確で、消毒できるという、近寄りがたいほどの完成度を誇っていたのです。そして短所は、ガラス製なので落とすと割れてしまうことと、ワキで正しく測ろうと思うと測定に約10分かかってしまうことでしたが、測定時間がかかることは仕方がないことだと考えられていました。
水銀体温計は、測定部位にはさむだけで測定をしてくれるシンプルな使いやすさがあります。しかし電子体温計は電子機器である以上、どうしても電源を入れる行為が必要で、今までより操作が増えてしまいます。これを解決したのが、「リードスイッチ」。 実は体温計の内部に磁気でON/OFFするリードスイッチというスイッチが入っています。そして収納ケースの中にも磁石が入っていて、体温計本体が収納ケースに収められると、本体のリードスイッチが収納ケースの磁石の出す磁気の影響を受け、電源がOFFになります。そして、体温計本体を収納ケースから取り出すと、磁気の影響を受けなくなるため、リードスイッチが元に戻り電源がONになります。このような仕組みで、収納ケースへの出し入れで電源ON/OFFを可能にし、電源を入れる手間をなくすことに成功したのです。
リードスイッチを採用する過程で考えたことは、測定した値が消えないこと。水銀体温計の場合、測定した値は、体温計を振って値を戻さない限りそのまま表示されます。これを電子体温計で実現するには、多少の振動や衝撃が加わっても電源ON状態をキープすること。つまり、両方のリード片が繋がって離れないようにすることでした。そのため体温計本体にも磁石を入れ、リードスイッチをその磁石の力で強制的に繋がっている状態にすることにしたのです。
注意)この機構は、全ての体温計に実装された機能ではありません。
消毒ができることも、水銀体温計の長所でした。病院では、多数の患者さんに使うので、体温計全体を消毒液に浸けて消毒することが多かったのです。消毒液に浸けられる体温計でなくては、医療機関の体温計を電子化することはできません。多くの部品を接合して作る電子体温計を防水構造にすることは想像以上に大変なことでしたが、液晶表示部と本体部を二色成形という隙間のない成形方法にし、超音波による接合で、防水構造にすることに成功したのです。
多くの試行錯誤を重ねた結果、水銀体温計の長所を継承しながら、壊れにくい電子体温計は1983年に完成し発売されました。病院の検温業務を研究しつくした使いやすさで、テルモの電子体温計は、全国の医療施設へと普及していったのです。
病気の時には長く測ることがつらいことがあります。体温を測る方に寄り添いたい、その気持ちから検温時間短縮への挑戦が始まりました。開発にあたり、水銀の使い勝手や精度を重視しつつ電子化のメリットを最大限に生かすべく「正しい体温を短時間に正確に測れること」を目指しました。
水銀体温計や実測式の電子体温計では、何分ぐらい測れば良いのでしょうか。これは難しい問題で、体温を測る前にワキを閉じていたか、開いていたかによっても大きくちがいます。正確さだけを考えれば、何十分でも体温計をワキにはさんでいればいいのですが、病気の人にそこまで我慢させるのは困難です。そこで、実際は10分間測定すれば、誤差は無視できる程度に収まるので、10分検温で充分ということに落ち着きました。
水銀体温計や実測式の電子体温計で、正確に体温を測定するには、10分間我慢すればいいことが分かりました。でも、10分間じっとしているのは、結構大変。赤ちゃんや子どもの場合、少しでもじっとしているのをいやがる傾向があるため、10分間は長すぎます。また検温中に眠ってしまい、水銀体温計が背中の下で割れてしまったということも、以前は珍しくありませんでした。
このため、測定時間不足のままの体温を採用してしまい、「この子の平熱は36.3℃」などという人が多かったのです。
その問題を解決すべく、テルモは1,000例あまりの体温測定データを記憶したマイクロコンピュータを体温計に内蔵。このマイクロコンピューターが体温の上昇を細かく分析・演算することで、20秒や30秒で平衡温を予測(予測検温)出来るようになりました。
※予測成立の電子音が鳴ってもそのまま測り続けると、自動的に「実測式」体温計に切り替わり、実測温を表示(実測検温)するようになります。