心因性発熱の背景にあるもの

公開日2021.08.30

※当コンテンツの内容は2021年7月時点の情報となります。

ストレス時に体温が上がるのは、生物として自然な反応です。ただし、心因性発熱の患者さんの場合(1)慢性ストレス状況で発症する、(2)ストレス過剰反応性が生じる という二つの問題点があります。さらに診療していくなかで、心因性発熱の背景に患者さんがさまざまなストレスを抱えていることも経験してきました。その背景の一端を紹介します。
監修:岡孝和(国際医療福祉大学 医学部心療内科学主任教授)

心因性発熱の患者さんが抱えるさまざまな問題点

本来、ストレス性体温上昇反応は自然な反応

ストレス時に体温が上がるという反応は、本来戦うか逃げるかという緊急事態の状況において生体の生存率を高める自然な反応で、恒温動物では広く認められる反応です。体(特に筋肉)をウオーミングアップさせた方が、素早い行動が取れるからです。健康な人でもスポーツの試合や入学試験などの直前は何もない日の同じ時間帯より、体温はわずかですが高くなっています。

では、心因性発熱患者さんの高体温は何が問題なのかというと大きく二つ挙げられます。一つは慢性ストレス状況で発症すること、もう一つはストレス過剰反応性が生じることです。

多くの患者さんは、慢性的に複合的なストレスが重なった状況で発症します。当然、ストレス状況では頭痛・腹痛・血圧上昇などの身体反応、不眠・不安・抑うつ気分などの精神反応など、多彩な症状が起こり得ます。つまり心因性発熱患者の高体温は短期的な自然な反応ではなく、慢性ストレスによって生じる健康障害の症状の一つであり、発熱以外にも多彩な症状を伴っていることが多いのです。また繰り返しストレスが加わると、体はそのストレスに適応していきます。その結果再び同じストレスが加わった時、ストレスがなかった時よりもはるかに顕著な体温上昇反応を生じるようになります。これがストレス過剰反応性で、動物実験では同じ量のノルアドレナリンを投与しても(同じストレスでも)慢性ストレスを受けたラットの方が、受けなかったラットよりも体温上昇が顕著に生じるようになります。これをヒトに置き換えると、元気な時であればストレスと感じることなくやり過ごせていたわずかなことでも発熱する原因になってしまうのです。このような背景から、心因性発熱患者さんは高体温を苦痛に感じるようになり、解決してほしいと病院に受診するようになるのです。

*ラット 実験に使うネズミの一種

心因性発熱を生じるようになる背後にあるもの

このように心因性発熱を生じる下地には、慢性的にさまざまな精神的及び身体的(感染やケガ)ストレス、生活状況や環境の変化が複合的に関与しています。私の臨床経験上特に発症前、3ヶ月から6ヶ月の間のストレス状況と、一部の患者さんでは幼少時のストレス(辛い体験)がさらにその下地を作っていることがあります。

このような下地となるストレスとしては、子どもであれば、いじめや進級・転校など新しい環境になじめないこと、家庭内での両親の不和、虐待やニグレクト(育児放棄・育児怠慢)、両親や教師からの過剰な期待などがあります。これらは比較的わかりやすいストレスですが、とくに注意が必要なのは熱があってもニコニコしている子どもたちです。周囲の大人には「とても良い子」に映り何も困ってなさそうに見えますが、実は大人の期待に応えるための過剰な適応努力によって発熱していることがあります。このような子は「何かつらいことはないの?」と聞いてもなかなか話してくれなかったり、本人も気づいていなかったりする場合があります。また、発達障害の子どもも、緊張感から微熱を出すことがあります。

大人の場合は、職場や家庭での人間関係・不慣れな仕事や長時間労働による負荷・介護と仕事の両立・大切な人の病気・死別などが挙げられます。とくにこれらの要因を複数抱えた状況にある人は要注意です。なんとか頑張って対処できている時よりも、もうダメかもしれないと消耗・疲弊している時に起こりやすく、うつ状態・不眠症を伴っていることがしばしばあります。

心因性発熱は珍しい病気ではありません

心因性発熱という病気は決して珍しい病気ではありません。心療内科医であれば、専門医になるまでにおそらくほとんどの先生が、目の前の患者さんの熱は本当に心因性でよいのだろうかと鑑別診断に悩みながら診療した経験のある病気だろうと思います。このように、珍しい病気ではない・治らない病気ではないという点では安心していただければよいのですが、逆に専門医でも正しく診断するためには悩む病気でもあります。自己判断は禁物です。


監修者紹介

岡孝和

国際医療福祉大学医学部心療内科学主任教授

1996年九州大学大学院助手、1998-2002年ハーバード医科大学、2002年産業医科大学医学部講師、九州大学大学院医学研究院心身医学准教授を経て、2017年より現職、2018年4月より同大学大学院医学研究科臨床医学研究分野心療内科学教授、2020年より国際医療福祉大学成田病院心療内科部長を兼任。

岡先生
からのメッセージ
慢性的に過労状態が続くと微熱を生じる人がいます。また心理的なストレスによっても高い熱が出ることもあります。このような人は病院に行って検査を受けても異常がないといわれたり、解熱薬を飲んでも効かなかったりします。ストレスが原因で生じるこのような発熱についてお話します。
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