公開日2021.08.30
※当コンテンツの内容は2021年7月時点の情報となります。
病気になるとなぜ、発熱することが多いのでしょうか。熱が出ているとき、体の中では何が起こっているのか、かぜをひいた時のことを例にとって考えてみましょう。
監修:永島 計 早稲田大学人間科学学術院 体温・体液研究室 教授(医師、博士(医学))
目次
かぜをひくと喉が痛くなったり咳がでたり、さまざまな不快な症状に悩まされます。発熱もその一つですが、その原因は多くの場合、かぜ症状をおこすウイルスが体内に入り、攻撃してくるからです。では、ウイルスなどの攻撃を受けたとき、なぜ発熱するのでしょうか。
かぜの原因となるウイルスが侵入してくると、外敵に気づいた免疫細胞たちが一斉に動き出します。免疫細胞は相手を攻撃する力を持つものだけでなく、味方に情報を知らせる役割を果たすものもいます。
こうした伝令のような役割を果たすものが動いて、外敵の侵入情報を脳で体温調節の司令塔となっている視床下部に伝えます。
外敵侵入の情報を得た視床下部は、体の各部に体温を上げるように指示を出します。この指令にもとづき、寒さを感じて服をきたり、布団にくるまったりします。同時に、皮膚の血管が収縮して熱放散を抑える反応が開始されます。また筋肉をふるえさせて熱産生をうながします。これらの活動により、体温が上がるのです。
かぜのウイルスの侵入を受けると、体はなぜ発熱するように働くのでしょうか。その理由は、ウイルスの侵入を受けた生体にとって、発熱したほうが戦いに有利だからだと考えられています。
発熱が生体全体にとって有利に働く理由は、まだ十分にわかっていません。しかし、試験管内の実験では、高い温度環境においては免疫細胞の働きがよくなり、ウイルスなどの異物に対する応答が強くなることが示唆されています。このため、発熱は生体にとって有利な応答であると推測されています。
18~19世紀に解熱剤が開発された時は、発熱は病的な状態なので、すぐに解熱剤を飲んで体温を下げるべきだと考えられていました。しかし現在では、発熱は体が身を守るための生体防御機能の一つとして理解されるようになっています。
感染症にかかったときに早い段階で解熱剤を服用すると、治癒までの期間が長くなるなど、予後を悪くする可能性があるといったデータもあります。
また、ある種の感染症の治療に対しては、特定の解熱剤で副反応が強まることも報告されています。こうしたことから、安易な解熱剤の使用は控えるべきといえます。
ただし、高熱が長く続くと体力の消耗や貧血などを引き起こすため、その場合は使用することもあります。また、発熱によるけいれん(熱性けいれん)を起こしたことのある小児の場合は、解熱剤を早めに使うこともあります。
時と場合によって対処方法は異なりますので、医師の判断を仰ぐようにしてください。
永島 計
早稲田大学人間科学学術院 体温・体液研究室 教授(医師、博士(医学))
1985年京都府立医科大学卒業。京都府立医科大学附属病院研修医、修練医、大阪鉄道病院レジデントを経て、京都府立医科大学大学院博士課程(生理系)修了。京都府立医科大学助手、YALE大学医学部・John B Pierce研究所ポストドクトラルアソシエート、王立ノースショア病院オーバーシーフェロー、大阪大学医学部助手•講師、早稲田大学助教授を経て、2004年から現職。日本スポーツ協会スポーツドクター、日本医師会認定産業医。